2017年8月10日の匠塾*1の各人の発表時に「自分の強みは、モデルのどこに書けば良いのですか?*2」という質問がありました。
わたしは答えを2つ考えました。
答え1
価値デザインモデルの「コンセプト」に強みの要素を入れると良いでしょう。
コンセプトは「ビジョンを実現するための構想」「ビジョンを実現するための戦略的要素」なので、「強みを活かして何をするか」という観点を入れたコンセプトを入れてみるのが良さそうです。
価値分析モデルの「手段」(=要求分析ツリーの業務要求)に記述できますが、埋もれてしまう可能性もあります。
答え2
匠Methodの「組織モデル」に「SWOT分析シート」*3がありますので、これを使いましょう。
自分の答えに対して生まれた問い
二つ目の答えとして「SWOT分析シート」をあげたものの「SWOT分析を匠Methodでどのように活用するのか?」については、その場で答えはありませんでした。
匠塾の後、山の日と土日のあいだに私なりに考えた*4ので、今日は「匠MethodにおけるSWOT分析の活用」をテーマに書きます。
SWOT分析とは
WikiPadiaには以下のように書かれています。
SWOT分析(-ぶんせき、SWOT analysis)とは、目標を達成するために意思決定を必要としている組織や個人のプロジェクトやベンチャービジネスなどにおいて、外部環境や内部環境を強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats) の4つのカテゴリーで要因分析し、事業環境変化に対応した経営資源の最適活用を図る経営戦略策定方法の一つである。
つまりSWOT分析は「経営戦略を策定するための方法」ということです。
SWOT分析で戦略を策定してはいけない
戦略を策定するための方法を紹介しておいて「SWOT分析で戦略を策定してはいけないとはなにごとだ!」と思うかも知れません。
その理由を説明します。
まず、SWOT分析について説明します。SWOT分析を下図に示します。
SWOT分析のプロセス
上図のようにSWOT分析は、以下の3つのステップで進めます。
ステップ1 SWOT分析
自社や自社の製品・サービスの強み、弱み、機会、脅威をマトリックスに記載します。
ステップ2 TOWS分析
TOWS分析は、クロスSWOT分析とも呼ばれ、「TOWS」の名は「SWOT」を逆さまにしたのが由来です。
以下の4つの組み合わせの視点から、施策案を検討します。
- 強み☓機会→積極姿勢の施策
- 弱み☓機会→弱点強化の施策
- 強み☓脅威→差別化の施策
- 弱み☓脅威→防衛/撤退の施策
ステップ3 戦略策定
TOWS分析をもとに、何をどのような順番で実行していくか、戦略を策定します。
SWOT分析で戦略策定の何がいけないのか?
SWOT分析は、古くからある手法で一見理にかなってそうですし、実際SWOT/TOWS分析をやってみると、良さそうな施策のアイデアが浮かんできます。
何がいけないのでしょうか。
それは「人の感性の不在」です。
関わる人(ステークホルダー)がどのように感じて、どのように嬉しいか。
その視点がSWOT分析から生まれてきた施策には欠けています。
「モノ」「カネ」「情報」「人(リソースとしての人)」をうまく組み合わせただけの「論理的な理屈だけの施策」になっているのです。
「理屈だけでは人は動かない」といいますが、「論理的・合理的なだけの施策」では人は動きませんし、無理やり動かしてもモチベーションが低いので失敗します。
実際に「論理的・合理的なだけの施策」で、失敗した事例をコンサルタントが赤裸々に書いた書籍があります。
- 作者: カレン・フェラン,神崎朗子
- 出版社/メーカー: 大和書房
- 発売日: 2014/03/26
- メディア: 単行本
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大手コンサルティングファームを渡り歩いてきた実力派コンサルタントが、「戦略計画」「最適化プロセス」「業績管理システム」などの戦略論・システムを振りかざして、企業を何度も崩壊させてきた過ちを告白した書籍です。
この書籍を読むと「論理的・合理的なだけの施策」がいかに失敗するかが分かるでしょう。
さまざまな戦略理論と匠Methodの違い
匠Methodと、昔から数多くある戦略理論の違いはなんでしょうか。
昔から数多くある戦略理論が戦略という「論理」だけにフォーカスをあてているものが多いのに対し、匠Methodは、関わる人(ステークホルダー)の感性、嬉しいことに、フォーカスをあてているということです。
人の感性(嬉しいこと)にフォーカスをあてる効果
企画・戦略策定の段階から、ステークホルダーの嬉しいことに共感することで、以下の効果が生まれます。
- 強引に説得するのではなく、その人が納得するための話がしやすくなる
- 自分たちの利益だけを追求するのではなく全体最適を考えているので、協力者が増える
- 多くのステークホルダーに共感したことによる広い視野の獲得。広い視野から生まれる的確な判断と行動
匠の夏祭り2017のセカンドファクトリー大関さんの事例は、当初IT活用の視点だけでうまく進まなかったプロジェクトが、価値分析モデルを使い、地元の人(徳島県)などのステークホルダーに共感し、広い視野を獲得したことで、協力者が増えプロジェクトが成功した良い事例です。
経営者・リーダーにとっていちばん大切なこと
あるとき、かつて経営の神様といわれたパナソニック創業者の松下幸之助に「経営者にいちばん大切なことを一つ挙げるとするとなんですか?」とあるコンサルタントが質問したそうです。いつもは質問に間髪入れずに回答する松下幸之助が数分考え込んだ結果、「一つではないといけませんか。二つではだめですか?」と言い出しました。
確認後の最終的な回答は二つでした。「人間観を確立すること。宇宙の哲理を把握すること」です(ほんとうは失敗続きだった「経営の神様」 P120より)。
- 作者: 中島孝志
- 出版社/メーカー: メトロポリタンプレス
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匠Methodの感性と人間観の確立
匠Methodで「人はどのような時に嬉しく、価値を感じるのか」という感性を明確にイメージするには「人間とはこういうものだ」という的確な観点を持っている必要があるでしょう。この観点が人間観です。
匠Methodの論理と宇宙の哲理の把握
ビジネスを考えるときには、ビジネスモデル、つまり、ヒト、モノ、カネ、情報が、どのような論理、理屈で動くかを考える必要があります。
ビジネスモデルは生態系そのものであり、生態系の論理、理屈を深く考え、本質を掴むことは、宇宙の哲理ともつながりそうです。
まとめると以下のようになります。
- 感性:人は何を嬉しいと思い、価値を感じるのか?(「人間観の確立」により深く考察できる)
- 論理:ビジネスはどのように動くのか?(「宇宙の哲理の把握」により深く考察できる)
究極をいうと、この2つをいかに極めるかで匠Methodをつかって創造されるものが変わってくるでしょう。
「宇宙の哲理の把握」のために、システム思考について学んでおくのもおすすめです。
世界はシステムで動く ―― いま起きていることの本質をつかむ考え方
- 作者: ドネラ・H・メドウズ,Donella H. Meadows,小田理一郎,枝廣淳子
- 出版社/メーカー: 英治出版
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匠MethodにおけるSWOT分析の使い方
それでは、SWOT分析は匠Methodでどのように使えばよいのでしょうか。
結論をいうと、施策のアイデア(施策案)を出すためです(下図参照)。
ここで生まれた施策案が、匠Methodの基本モデル(ステークホルダーモデル、価値デザインモデル、価値分析モデル、要求分析ツリー)のインプットとして活躍します。
SWOT/TOWS分析から生まれた施策案は、3つの使い方が考えられます。
- 価値分析モデルの「手段」
- 価値デザインモデルの「ビジョン」「コンセプト」
- プロジェクト企画案
(1)価値分析モデルの「手段」
TOWS分析の施策案をそのまま、価値分析モデルの手段に使います。
価値分析モデルを作っている際、施策のアイデアがなかなか出にくい場面があります。
漠然と施策のアイデアを考えるよりも、SWOT/TOWS分析から生まれた施策案は鋭い視点をもつでしょう。
(2)価値デザインモデルの「ビジョン」「コンセプト」
以下の記事にも書きましたが、施策案を段階的に抽象化し、価値デザインモデルのビジョン、コンセプトに昇華させる使い方です。
A,B,C と生まれた施策を「A+B+C→X」と思考をジャンプできるかがポイントです。A+B+Cのままだと現状の延長線上を未来を描くことになります。
(3)プロジェクト企画案
施策案が、そのままプロジェクトの企画案になる場合もあります。
例えば、弊社運営のPyQをTOWS分析で考えると「Pythonにおいての実績・ブランド」という強みと「プログラマー需要の上昇」という機会があり、「オンラインPython学習プラットフォームのPyQをつくる」という施策が生まれ、それが、プロジェクトの企画案になります。
Pythonにおいての実績・ブランド(強み)☓プログラマー需要の上昇(機会)= PyQ
SWOT/TOWS分析の具体的な進めかた
SWOT分析
まずは、SWOT分析の進め方です。以下のサイトを参考にさせていただきました(いろいろサイトを見ましたが一番まとまっていました)。
強みのリストアップ
企業の強み・弱みは、以下の視点から考えます。
- 財務の視点
- 顧客の視点
- 業務プロセスの視点
- 人材と変革の視点
# コアコンピタンス経営
2000年頃、コアコンピタンス経営が一世を風靡しました。その後、経営戦略理論としては廃れてしまったのですが、企業の強みを考えるための視点としては、まだ使える気がします。
WikiPediaによると、コア・コンピタンスは次の3つの条件を満たす自社能力のことです。
- 顧客に何らかの利益をもたらす自社能力
- 競合相手に真似されにくい自社能力
- 複数の商品・市場に推進できる自社能力
匠Methodの「シーズ」にも該当し、再考の余地がある理論と思われます。
# 個人の才能・強み
キャリアデザインの場合は、以下の書籍のWebツール「ストレングスファインダー2.0」を使って、自分の才能を抽出し、そこを起点に強みを考えていくのも良いでしょう。
さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 新版 ストレングス・ファインダー2.0
- 作者: トム・ラス,古屋博子
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2017/04/13
- メディア: 単行本
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この書籍によると、才能とは、「無意識に繰り返される思考、感情、行動のパターン」であり、知識(学習と経験によって知り得た真理と教訓)と技術(行動のための手段)が組み合わさることにより、強み(常に完璧に近い成果を生み出す能力)になるとのことです。
ちなみに、私の才能は以下の5つでした。
弱みのリストアップ
強みと一緒に弱味もリストアップします。
リストアップした項目を「強みなのか弱みなのか」という議論を始めてしまうと、延々と終わりません。
それは、周りの環境によって、強みにも弱みにもなることがあるからです。
たとえば「会社が小さい」は、会社が小さくて有利な場面・環境もあれば、不利な場面・環境もあるということです。
チームの思考が、攻め重視の場合「強み」に、守り重視の場合「弱み」に入れておきましょう。
(攻め重視も守り重視も決まってない場合は、楽観的に「攻め」に入れておきましょう)
機会・脅威のリストアップ
機会と脅威のリストアップする際、外部環境を捉えるための観点をあげておきます。
# マクロ外部環境
PESTと呼ばれる4つの観点です。
- Politics(政治)
- Economy(経済)
- Society(社会)
- Technology(技術)
# ミクロ外部環境
3Cと呼ばれる3つの観点です。
- 顧客
- 自社
- 競合
業界内の外部環境として、5Forcesと呼ばれる5つの観点です。
- 新規参入
- 既存競合
- 売り手圧力
- 買い手圧力
- 代替品の脅威
# イノベーションの7つの機会
P.F.ドラッカーの「イノベーションの7つの機会」を観点として、機会(チャンス)を観察するのも良いでしょう。
- 作者: P.F.ドラッカー,上田惇生
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2015/12/04
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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書籍に書かれているのは、以下の7つです。
1. 予期せぬことの生起。予期せぬ成功、予期せぬ失敗、予期せぬ出来事。
2. ギャップの存在。現実にあるものと、かくあるべきものとのギャップ。
3. ニーズの存在(プロセス・ニーズ、労働力ニーズ、知識ニーズ)
4. 産業構造の変化
5. 人口構造の変化
6. 認識の変化、すなわち、ものの見方、感じ方、考え方の変化
7. 新しい知識の出現
イノベーションを生み出すことは、どの企業にとっても必要なことです。この7つの機会を観察し、自分たちにとっての機会(チャンス)を見いだしましょう。
強み☓機会→積極姿勢の施策
強みに対して、外部環境の機会が訪れているので、積極的な施策を考えます。
弱み☓機会→弱点強化の施策
自社の弱点を補強し、リスクを下げるための守りの施策を考えます。
品質面、財務面、法律面などの施策になるでしょう。
強み☓脅威→差別化の施策
脅威を遠ざけて立ち位置を築くための、差別化の施策を考えます。
差別化を考える上で、参考になる2つの書籍を紹介します。
ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)
- 作者: 楠木建
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
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「ストーリーとしての競争戦略」は、いかに他社と差別化し、模倣されにくい製品・サービスをつくるかという視点を学べます。
この書籍はPyQを企画時にチームメンバーで読み、とても参考になりました。
[新版]ブルー・オーシャン戦略―――競争のない世界を創造する (Harvard Business Review Press)
- 作者: W・チャン・キム,レネ・モボルニュ,入山章栄,有賀裕子
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ブルーオーシャン戦略は、低コスト化と高付加価値化という相反することを両立させ、バリューイノベーションを起こすという考え方です。
- 「減らす」「取り除く」ことによる低コスト化
- 「増やす」「付け加える」ことによる顧客価値向上
弱み☓脅威→防衛/撤退の施策
戦争は殿(しんがり)が一番難しく、勝ち戦よりも負け戦が難しいと言われるように、撤退戦略は、事業戦略でも最も難しいといわれます。
撤退の機会を逃すと大きな損失を生みます。そのような観点で、防衛/撤退の施策を検討します。
まとめ
私は、古今東西で生まれるさまざまな戦略論が使えないといっているわけではありません。
戦略論は論理という面で秀逸であるものが多く、施策を生み出すために重宝できるでしょう。
しかし、論理だけでは片手落ちで、人の感性と論理が組み合わさってこそ、戦略が絵に描いた餅にならず、人を動かし価値を創り出す戦略になります。
これからもさまざまな戦略論や経営論が生まれてくるかと思いますが、「その戦略理論は、人の感性の面にフォーカスしているか?」という視点で見てみるのも良いでしょう。
こうなってくると、組織モデルにある「BSC匠戦略マップ」も気になるところです。
新たな知見が得られないか、情報にあたり再考したいところです。
- 作者: ロバート・S・キャプラン,デビッド・P・ノートン,櫻井通晴
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2001/08/30
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