2018年7月18日に起業をテーマにした勉強会に参加しました。
参加のきっかけと動機
日頃懇意にして頂いているアクティア高崎さんの三大師匠の一人が主催の和波さんとのこと(BPStudyでの資料)。高崎さんがFacebookでシェアしたイベントページの内容を読み、自分にとって参考になりそうと感じた。
主催の和波さんが著した書籍「ビジネスモデル症候群」を2017年に読み、感銘を受けていた。
- 特に「ビジネスモデル症候群の典型的な5つの症状」の「経営破綻」について。(この点はいずれブログに書きたいと思います。)
ビジネスモデル症候群 ~なぜ、スタートアップの失敗は繰り返されるのか?
- 作者: 和波俊久
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2017/09/15
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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自分中心のビジネス設計というキーワードが、日頃自分が考えていることとマッチしていたので内容を聞きたかった
「起業=会社をつくること(=自分で会社をつくるか否か)」という観点ではなく「起業=事"業"を"起"こす」という観点から参考にしたいと思った。
内容メモ
和波さんの話
メインテーマ
- 起業を加速する「自分中心設計」のススメ
- ビジネスモデルは自分中心で
和波さんの取り組み
- 起業のプロセスを支援
- 事業のインキュベーターはやらない
起業家のヒトという面を支援
- つかの間のハッピーを楽しむよりは、起業家の考え方を習得したほうが起業家が幸せ→ビジネス設計のアドバイスをしなくなった
ビジネスモデル症候群
- ビジネスのアイデアを持っている人の方が失敗する
- アイデアを専有していると、自分のアイデアの成功ばかりに目が行ってしまい、不都合な真実からは目をそらす
- 人には見たくないものは見ないという習性があるため
- あの成功しそうな人は、なぜ次から次へと失敗するのかという疑問があった
自分中心設計
- マーケットに近づくほど成功するというのが現在のパラダイム
- マーケットに近づいた結果、ビジネスモデル症候群にかかった起業家たちがたくさんいる
- 自分を中心に置いたほうが起業はうまくいく
- 働くということは人生の大きなファクター
ジョナサン・ハイト(心理学者)
- 書籍「しあわせ仮説」
- 幸福は「あいだ」から訪れる
自分と人生の大きなファクターである仕事との「あいだ」に良い関係性が構築できているか。「あいだ」から幸福が訪れるか
アイデンティティ
アイデンティティ=同一性という意味(個性ではない)
- 人格における存在証明または同一性
- ある人が一個の人格として時間的・空間的に一貫して存在している認識を持ち、それが他者や共同体からも認められていること。自己同一性。
- 意識(self consciousness) - 接点(contact) - 評価(evaluation)
- 社会からは接点で評価される
- 接点と本人が頭に抱えているもの(意識)は似て非なるものである
- 起業家の場合、接点は仕事である。自分(意識)-仕事-評価
本人の意識 --- 評価
- 正しくない関係→起業家のアイデンティティ・クライシス
起業とは、自己と職業の同一性を主体的に確立する行為
- 「新しい事業を起こすこと=事業を起こす人たち自身と職業の同一性を主体的に確立する行為」と定義したい(haruメモ)
起業によるアイデンティティ確立パターン
外部評価優先型
- ビジネスモデル(成功しそうな)
- (1)創業→(2)評価→(3)経営者としての自覚が生まれてくる(アイデンティティ確立)
自分中心設計型
- (1)自分→(2)創業→(3)評価(アイデンティティ確立)
- 自分が喜ぶ仕事をつくったほうが手っ取り早い(自分中心設計型)
Heart Quake 千葉さんの話
- 自分中心起業の秀逸な事例(和波さんより)
Heart Quake 千葉順さん
- 半年働いて、半年休むという働き方
- 事業:ゲーム ☓ 研修(教育)
ソフトバンクアカデミアでゲームを使った教育(マネジメントゲームMG)
「ゲームなら1日に10期分、10年分の経営だって体感できる」(孫正義)
3つの制約から自由になりたい
- お金
- 時間
- 場所
研修事業を選んだ訳
- 単価が高い
- コンテンツだけ販売すれば良い
- e-learningだと競争がある
ゲーム ☓ 教育
- ものだけ売れば、行かなくてよい。買う側も価格が安い
レンタル
- ものを送るだけで良い
「自分がその場にいて働かなければいけないのならば、それはビジネスではない。仕事だ。」( 改訂版 金持ち父さん 貧乏父さん:アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学 (単行本) より)
半年働いて半年休む
- 休み期間は、純粋な休み&研究開発
* less is moreの考え方
- 「来年の売上目標は120%」→ラットレース
- Heart Quakeの場合、弊社の来年の売上目標は今年の100%(同じ売上)
ただし工数は80%→だんだん仕事を時間をする時間が短くなる
成功と幸福は同じか?
- 幸福を追っていきたい。世でいう成功を捨てている
- 何の20%が自分が望んでいる結果や幸せをもたらすか?
幸福の4定義
- 自由
- 楽しさ
- 快適さ
- 健康
おすすめ
- 働くを再定義してみる
以下の書籍を読む
お金を生み出す資産を作る
- 場所に縛られない
- 自分が働かなくても良いなにかを探す
- やりたいことリストを100個書いてみる
- 自分にとっての幸福を定義する
Q&Aから生まれた話、最後に和波さんの締めの話
- 仕事などの経験がないと、いきなり自分中心設計の判断をするのは難しい(和波さん)
仕組みをつくるのは仕事(明日の自分を楽にする)。仕事を進める=作業(労働)
- 商品をつくる
ブログを書く(検索エンジン経由でのコンテンツマーケティング)
- ブログは継続的に書いている
- リサーチする日+書く日
本気で働きたくないと思っている(千葉さん)
- 働かないためには働く必要があるとは千葉さんは分かっている(和波さん)
したくないことから考える
- 「好きなことを見つけよう」ではなかった
ビジネスはなんでもよかった
- そのために、さまざまなことに手数を打っている
- 事業についてはニーズ100%
事業を選んだ基準
- ほとんど労働無く月5万円稼げるか
- 民泊は業者に頼んで運用を自動化していた
組織運営は、自分中心100%
- 「なんでも良いです」というひとを採用している
先を見据えて、今日を行動する
- 大学卒業後を選んで、大学を選んだ(研究室を選んだ)
- NG:今良いものをやっていれば、その先もよくなるだろう(先は考えていない)
- 起業の奥を見据えて起業する
起きたことは全て自分の責任という発想をもつ
- 他人事だとおもっていると、そこで終わる(和波さん)
- 自己決定権が親から与えられていた(親もわからないので自分で決めろという感じだった)
イヤなもの(ストレス、摩擦)を取り除く
オスカー受賞の辻一弘、苦悩と栄光「自分に合った生き方を」 - シネマトゥデイ
- 苦痛がある以上は、働いていけないという繊細さを持っている
働くことに対する摩擦要素を取り除いていくと、働くことへのモチベーション、トラクションが働いてくる(和波さん)
職業同一性障害について(和波さん)
- 職業同一性障害=自分に対する認知と職業が一致していないこと
- ビジネスで成功する≠職業同一性障害が解消する
起業を目的としている人と、手段にしている人が明確に分かれる(和波さん)
外部評価優先(起業が目的)(和波さん)
- 外部評価を優先する人ほど、流行りのビジネスを継ぎ合わせてビッグ・ピクチャーを持ってくる
より大きな目標が成長を加速させるという側面もある
- 実際はどちらが良いかわからない
- 外部からの評価を得て一気に成長するということも否定しない
自分中心設計(起業が手段)
*「良い家」とは「豪華な家」ではなく「住むひとが快適な家」である(和波さん)
私の気づき
「自分中心起業」というテーマの会に参加して、以下の3点について考える機会になりました。
- ストレス、摩擦を取り除くことと仕事、人生の関係
- 自分中心起業とFounder Problem fit
- 真似されにくい事業をつくるための自分中心設計
それぞれ、以下にまとめます。
ストレス、摩擦を取り除くことと仕事、人生の関係
千葉さんの起業は「自分は働きたくない」と考えることからスタートしました。
「働くこと=ストレス」と捉え「ではなるべく働かないためにはどうしたらよいか」と発想し、自分の人生を自分の責任のもとにつくっています。
そのように人生からストレスを取り除いていく話を伺い、私は「ゲームニクス理論」を思い出しました。
- 作者: サイトウ・アキヒロ,鴫原盛之
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2013/06/13
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ゲームニクス理論は、ヒットするゲーム制作のノウハウを体系化した理論で、以下の4原則から成り立っています(引用元)。
- 第一原則 直感的なユーザー・インターフェイス(=使いやすさの追求)
- 第二原則 マニュアルなしでルールを理解してもらう(=何をすればいいのか迷わない仕組み)
- 第三原則 はまる演出と段階的な学習効果(=熱中させる工夫)
- 第四原則 ゲームの外部化(=現実とリンクさせて、リアルに感じさせる)
ゲームの構造は建物の1階と2階に例えることが出来ます。
1階は操作性(UI)(ゲームニクス第一原則)とゲームルール(ゲームニクス第二原則)で、ゲームの土台にあたります。
操作性がスムーズで、ゲームルールが理解しやすいと、プレイヤーはスムーズにゲームの世界に入っていけます。
しかし操作性が悪かったりルールの理解しずらいと、ゲームの設計がいくらよくてもプレイヤーはストレスからプレーをやめてしまいます。
したがって、まずは操作性(UI)とゲームルールの理解に関して、ストレスを極力排除することが、面白いゲームの最初の分岐点となります。
2階はゲームそのものの設計に該当します。
面白いゲームは、ストレス(障害の発生)と快感(障害のクリア)を繰り返す演出により、プレイヤーが熱中し、ハマるように設計しています(ゲームニクス第三原則)。
ゲームを仕事に置き換えると
ゲームを仕事に置き換えたのが以下の図です。
仕事の土台(1階)は、会社などの組織や仕事環境にあたるでしょう。
2階は価値を生み出す仕事そのものです。
ゲームになぞらえると、仕事に夢中になりハマるためには、土台となる組織や仕事環境から不要なストレスを取り除くことが大前提になります。
組織や仕事環境から取り除くべきストレスには、さまざまなものが思い当たります。
- 人を縛る余計なルール
- さまざまな手続き
- 不要な会議
- ムダな通勤(通勤することそのものが目的となっている通勤)
- 社内政治
- 悪い人間関係
- 作業しにくい環境
etc...
これらのストレスを取り除いた組織をつくることが、働く人のモチベーションを自然に生み出すといえるのではないでしょうか。
ゲームを人生に置き換えると
人生はドラゴンクエストなどのロールプレイングゲーム(RPG)に例えられることもありますが、上記の「ゲーム」を「人生」に置き換えたのが以下の図です。
ストレスは2種類あります。
- 乗り越えることで快感(達成感)を得られるストレス(良いストレス)
- 乗り越えても快感(達成感)を得られない、乗り越えることでやっと行動のスタート地点に立てるストレス(悪いストレス)
ストレスは一括りで悪いものと捉えられがちですが、自分にとって何が良いストレスで、何が悪いストレスなのかを見極めることが大事です。
ゲームや仕事と違い、自分の人生は自分以外の誰も設計してくれません。
自分にとって悪いストレスは人生から取り除き、良いストレスは乗り越えようとすることで、生きることそのものに夢中になり*1、生きがい(快感・達成感)を得ることができるでしょう。
自分中心設計とFounder Problem fit
「自分中心設計」というキーワードから連想したのは「Founder Problem fit」という言葉です。「Founder Problem fit」とは、書籍 起業の科学 スタートアップサイエンスに登場し、起業の創業メンバーと解決に取り組む課題がフィットしているかを示す言葉です。
起業の科学 スタートアップサイエンスは、起業家が取り組むべき課題を検証し、事業化していくステップが説明されている書籍です。
「起業の科学」で説明されている検証のステップは大きく以下の4つです。
(1)Founder Problem Fit
起業家(Founder)と取り組むべき問題がフィットしているかを検証
(2)Customer Problem Fit
顧客が解決するべき切実な問題を持っているかを検証
(3)Problem Solution Fit 提供しようとしているソリューションが課題を解決するかを検証
(4)Product Market Fit 製品が市場に受け入れらているかを検証
事業の起点・中心になるのは起業家の人生
4つの検証ステップのスタートが「Founder Problem Fit」です。
解決しようとしている問題が、その事業を起ち上げるひとたちが取り組むべき問題なのかを考えることは重要な分岐点です。
なぜなら事業をつくるためには年単位の時間を投資することになるからです。
儲かりそうという理由だけで自分と合っていない仕事に取り組んでも、いつかは自己矛盾を起こし長続きはしません。
以下のようなことを確認し、時間をかけて取り組むべきかを判断する必要があるでしょう。
- 自分がどのように生きたいのか
- 自分がどのように仕事をしたいのか
- 今までの経験や、人生の背景
- 自分の得意分野
- 自分の興味
匠Methodにも「シーズからニーズを描く」という言葉がありますが、シーズを描くためにも、まずは自分のモチベーションの源が何かを見極め、確認しておく必要があります。
真似されにくい事業をつくるための自分中心設計
書籍「ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)」では、事業が競合から市場で持続的優位を築くための「競争優位の階層」を提示しています。
競争優位の階層は6つ階層から構成されます。
- レベル0:外部環境の追い風
時代の背景、世の中の流れ・流行、法律、規制など
- レベル1:業界の競争構造
業界にどのようなプレーヤーがいるか、市場規模、商習慣など
- レベル2:ポジショニング(SP: Strategic Positioning)
市場での立ち位置。活動の選択(やることとやらないことを決める)。外に見えやすい手足のようなもの
- レベル3:組織能力(OC: Organizational Capability)
他社と違った独自の強みを持つ。組織能力、社内プロセス、外には見えにくい筋肉のようなもの
- レベル4:戦略ストーリー
それぞれの打ち手のつながりや交互効果、一貫性(打ち手同士の因果論理)
レベル5:クリティカルコア
戦略ストーリーの一貫性の基盤となり、持続的な競争優位の源泉となる中核的な構成要素。他の様々な構成要素と深い関わりを持ち、一石で何鳥にもなる打ち手
書籍「ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)」では、これらの階層を構築していくことで、持続性のある競争優位を築くことができるとしています。
組織能力(OC: Organizational Capability) を築く
競争優位の階層のレベル3は 組織能力(OC)です。
組織能力(OC)は、日々の取り組みであり、組織の習慣や考え方、価値観などから導き出されます。
ゆえに他社からは見えにくく、また真似されにくい製品・サービスを構成する要素のひとつとなります。
社内プロセスは、日常繰り返す活動となるので、繰り返すにあたり苦痛がないことが前提条件です。
したがって社内プロセスをつくるときは起業家自身の価値観を見つめ直し、苦痛にならないプロセスを構築する必要があるでしょう。
最後に
12年前にビープラウドを創業し、活動してきました。
その中でさまざまな価値観を身に付けてきましたが、整理できていないことも多々あります。
今回の参加を機に、自分自身のモチベーションの源泉(=自分の中心)をもう一度見直したいと思います。
またアイデンティティ確立が、起業家自身の幸せにつながるという発想も自分にはないものでした。
自身のアイデンティティについても考える良いきっかけにしたいと思います。
*1:フロー状態ともいいます