2018年4月25日に静岡県の沼津市で開催された、羽生善治さんの講演に参加しました。
講演のテーマは「決断力を磨く」です。
羽生さんの話は18時40分頃から始まり、約1時間20分でした。
講演内容は、報知新聞のサイトでまとめられています*1。
羽生善治さんについて
羽生善治さんは昨年竜王に返り咲き、永世7冠となりました。
2018年3月には順位戦A級を勝ち抜き、現在は佐藤天彦名人との名人戦に挑戦中です(2018年5月8日現在1勝1敗)。
棋士はどのように手を決断しているか
羽生さんの話で印象に残ったのは、棋士がどのように指す手を決断するときに、直観で2、3手を選ぶ→ロジック(手を読む)→大局観で選択するという思考の過程を経ているという話です。
1.直観で2,3手を選ぶ
まずは、今までの集大成をもとに、直観で1秒にも満たない時間で2,3手を選ぶ
2.選んだ2、3手の先を読む
選んだのは2、3手でも手の組み合わせは掛け算なのですぐに読むべき手のパターンが爆発する(10手先は3の10乗で6万弱のケース)
3.大局観で手を選択する
大局的な視点で戦略的、抽象的に手を選択する
仕事に必要な決断力
経営の仕事に限らず、日々の仕事では正解が存在することはほとんどありません。
そのため、自分が「正解である」という手を決断する必要があります。
この決断が速ければ仕事は速く進行し、選択した手が正解であれば望ましい結果がもたらされます。
指してみて結果が現れないと正解かどうかがわからないのは、将棋も仕事も一緒です。
私は経営者として日頃から決断の機会も頻繁に訪れます。
私が心がけているのは、なるべく即決することです。
なぜなら私がすぐに判断すれば周りの人がすぐに動き出すことができ、会社やプロジェクトのスピードに直結するからです。
このエントリーでは羽生さんに触発され、決断力を磨くために私が日々心がけていることをまとめます。
仕事のドメインについて勉強・研究し続ける
羽生さんは「まず、直観で2,3手を選ぶ」とおっしゃいましたが、その元になるのは「今までの集大成」です。
集大成とは、棋士で言えば定石や手筋の研究、対戦の経験などです。
一般的な仕事でいえば対象ドメインの勉強や実践経験といえるでしょう。
これらが直観のインプット(材料)になります。
この材料が不足していると、誤った手を選択してしまうことも多くなり、思考も迷宮入りします。
決断力を磨くためには仕事のドメインについて常に学び続け、判断材料を仕入れ洗練させる必要があります。
価値観を育てる
決断するには判断基準が必要です。
判断基準がないと、毎回1から考えなくてはなりません。
判断基準の元となる自分なりの価値観を育て、自分の中で運用されていれば決断は速くなります。
開発者としての価値観を育てたい場合は、まずアジャイル開発の考え方を学ぶと良いでしょう。
最近では開発者に限らず、アジャイル開発の考え方で行動する組織として「アジャイルエンタープライズ(アジャイル企業)」という考え方もあります。
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さまざまな人の考えを知る
人の考え方や、仕事の理論、仕事の方法は無数にあります。
それらは時代とともに変わっていくもので、数は無限に増えていきます。
自分の価値観とは違うことを言う人に対して「なぜそのようなことを言うのか」が分からないという場面は多々あります。
しかし読書などで自分とは違う価値観や考え方、理論も知っておくと理解できたりします。
そのように材料を増やしておくことで、一緒に仕事をする人の背景や考え方も踏まえると新しい手が見えてくることがあります。
直観で行動した結果を判断ロジックにフィードバックする
自分の直観が正しかったかどうか結果をもとに振り返り、判断ロジックを再構築することも必要です。
振り返りにより、どのようなときに自分は選択を間違えるのか、即決を一旦止めたほうが良いのか、直観が当たるのかが分かるようになってきます。
私は仕事以外の場面でも、日頃から直感を磨くようにしています。
立ち止まる習慣をつける
勉強をし、自分なりの判断基準を持ち、経験が豊富になってくると、素早く判断できるようになります。
しかし同じ思考回路を繰り返していると、いつしか時代や周りの環境が変わったときも同じ思考回路で判断してしまいます。
同じ思考回路(プログラム)で、同じ出力(判断)を繰り返す状況となり、いつしか時代の変化についていけず偏屈な老害になりかねません。
決断するべき課題が現れたら、一旦判断を保留し、自分と違う視座(他人の視座)で考えてみたりすることによって新しい思考を得ることが出来ます。U理論でいうと以下の図になります。
これを日々習慣づけると、思考回路を日々再プログラミングしてアップデートし続けることができ、思慮深い人になれるのではないでしょうか。
大局観で選択する
大局観とはなんでしょうか。WikiPediaには以下のように書かれています。
ボードゲームに置いて、部分的なせめぎ合いにとらわれずに、全体の形の良し悪しを見極め、自分が今どの程度有利不利にあるのか、堅く安全策をとるか、勝負に出るかなどの判断を行う能力のこと。 大局観に優れると、駒がぶつかっていない場所から意表を突く攻めを行うなど、長期的かつ全体的な視野のもと手を進めることが可能となる。
大局観で判断するのと対象的なのは「ベタ読み」で判断することです。
ベタ読みとは目の前の駒の状況を元にひとつひとつ読んでいくことです。これを全てに適用していたら時間はいくらあっても足りません。
匠Methodの要求分析ツリーでいうと、ビジョンや目的レベルに照らし合わせて判断するのが「大局観で判断する」、IT要求、活動レベルだけを見て判断するのが「ベタ読みで判断する」に該当するのではないでしょうか。
物事を判断する時に「ビジョンに合っているか」「そもそもどのような価値があるのか」という大局的、抽象的、戦略的視点で常に考えることで取捨選択が速くなります。ビジョンから外れていたり、価値が生まれないアイデアはすぐに捨てることができるからです。
このような思考をメタ認知というそうです(弊社メンバーに教えてもらいました)。
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まとめ
羽生善治さんの「決断力を磨く」というテーマの講演をもとに、自分が経営者として決断するために日々考えていることをまとめてみました。
羽生さんのように長い間活躍できるように、経営者として名人クラスに決断力を磨き上げていきたいと思います。
*1:記事がいつまで残っているかはわかりません