「社長失格」というノンフィクション小説がある。97年12月に37億円の負債を抱え、倒産したITベンチャーの社長が執筆した小説である。98年11月に発売されたが当時、この本を読んだ私は「社長は大変なんだなぁ。自分にはこのような大変な思いをするのは無理だなぁ」と感じたものである。
先日、この本を10年ぶりくらいに読み返した。小説の舞台であるハイパーネットという会社は著者の板倉氏により、1991年に設立される。板倉氏は、1995年にハイパーシステムというインターネット広告システム事業を考える。第三次ベンチャーブームと呼ばれた時代で、銀行がベンチャーに積極的に資金を融資するという時代。板倉氏の事業プランを聞いた銀行がこぞって融資した。集めた数億円の資金でハイパーネット社システムを完成させ、システムは96年6月に本格稼働する。しかしふたを開けてみると、当初の計画通りに売上は伸びなかった。ネット広告市場がまだ本格的に立ち上がっていなかったのである。ここから流れがおかしくなる。そして97年2月頃からいわゆる銀行の貸し剥がしがはじまる。数億円単位でハイパーネット社に融資していた銀行が横並びで融資の返済を求めてきたのである。金融機関との交渉や、新たな出資先、融資先をみつけるために板倉氏は奔走するが、97年12月とうとう破産する。
ここで、私はP・F・ドラッガーの以下の言葉を思い出した。
「成功するほど財務見通しの欠如が命取りになる」
ドラッガーによると、成長期にあり財務志向に欠如したベンチャーが発症する病はいつも同じで以下の3つだそうだ。そしてこれらを同時に発症し、立て直しに非常な苦労と苦痛を伴う。
・第一に、今日必要な現金がない
・第二に、事業拡大に必要な資本がない
・第三に、支出、在庫、債権を管理できない
これらはまさに「社長失格」の中に書かれた話そのままである。
10年ぶりに「社長失格」を読み返し、「私にはこのような大変な思いをするのは無理だ」とあらためて感じた。私が「無理」と感じたのは、板倉氏のように金策のために、金融機関との交渉に明け暮れることである。経営者が金融機関や投資家の方ばかりを向いていれば、会社にとって、最も基盤となる社内の関係、顧客との関係がおろそかになる。そうなるとなおさら本業も傾く方向に進んでいくのだろう。
このようなことにならぬよう、事業と財務のバランスを常に保つようにしていきたい。
今年の目標102エントリー まであと70社長失格―ぼくの会社がつぶれた理由/板倉 雄一郎
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