2017年8月31日にBPStudy#120が開催されました。
2007年9月に第1回を開催し、毎月1回のペースで開催してきていますので、丸10年の節目となる開催です。
第1部は株式会社ヴェルク代表取締役社長の田向さんに発表頂きました。
ヴェルクさんは、受託開発とサービス開発を両立していて、サービスとしてはboardという、請求書や見積書などの書類作成、受発注、請求・入金などの業務管理、売上やキャッシュフロー予測などの経営分析のためのクラウドサービスを運営しています。
boardはリリース3年で有料の顧客が900社を超え、順調にサービスが伸ばしているということもあり、そのノウハウをお話いただきたいと思い、お声がけしました。
boardはビープラウドも3年前からboardを使わせていただき、ユーザー事例も掲載いただいています。
田向さんの発表資料は以下です。(はてなブックマークが2017年9月16時点で883!)
あらためて資料を拝見し、私に刺さったポイントをまとめてみました。
事業戦略
- いろいろ方法があるなかで、重要なのは、やり方ではなくどうやるか
- リソースは限られているので、やることは本当に重要なもの、自分たちが強いものに絞る
- 知名度が無いので、圧倒的なサポートで差別化。お試しした人に続けて使ってもらう
- サービス成長が遅いと事業継続が厳しいのでは?→受託事業があり、外からのプレッシャーがないので収益化を急ぐ必要はなかった(当初は売上の座布団になれば良い程度で考えていた)
- 他のサービスと比べて「明らかに良い」ではないと売れない。多くの人は「ちょっと良い」程度だと有名な方を選ぶ
- 月額、980〜5980円なので、訪問したら赤字。依頼があってもお断りしている。来社、Google Hangoutなどリモートでの面談はやっている。個別相談会でフォロー
- 開発ロードマップは好評。ユーザーとの信頼を構築する方法の一つ
- 力を入れない、後回しにするとした分野はゼロではなく、少しずつ地道な活動をして経験値を貯めておく
企画
- 限られたリソースの中ではドッグフーティングできる分野を選択することは重要
- 競合を参考にしていては差別化できない
- スモールスタートというが、スモールすぎると前に進まない。バランスは重要
- 自分が素人の分野に時間をかけるのはリスク
- 売れないものをコストをかけてつくってしまうリスクを下げるため、社内用α版(自社の業務がまわるか)、クローズドβ(知り合いを中心に外部に使ってもらう)、パブリックβ(十分な完成度)と進めた
- 無駄なものをつくらないために、競合は見ない。つくる機能を吟味する。あったらいいねレベルはつくれない
- ユーザーの声は改善の源泉だが、大きな声に左右されない軸は必要
開発
- 独自UIの実装は時間が掛かるので頑張らない(まずはbootstrap、JQueryの世界で)
- 時間をかけるのは、業務フィット感やユーザ視点での完成度
- 多機能ではなく完成度を高める
- 自動テストは事業成立がわからない段階では力を入れない。事業として成立したら、安定した継続開発のために力を入れる
- 初期の頃は機能実装が優先で、3年目くらいからリファクタリングなどの改善に時間を割けるようになった
- セキュリティは専門ではないので、お金で解決。WAF=Scutum、IDS・IPS=DeepSecurity、セキュリティテスト=VAddy
- 他のメンバーが開発に入った時、同じ完成度でリリースするためには、開発スケジュールは倍は想定する。時間がかかることが問題ではなく、想定しておくことが重要
サポート
- 開発者がサポートに関わるのはつらいこともあるがおすすめ。使いにくい機能をつくらないようになる、肌で優先度の強弱を感じられる、30分で実装ができることで問合せが減るような改善に気づけるなどのメリットがある
- 問い合わせ対応はintercomを使ったチャットサポートのみ。メールが来てもチャットに誘導している
- サポートは即レスで一発で正しい回答が重要。それしかない。
- ヘルプを充実して、簡単に説明後、ヘルプへ誘導している(効率向上、自分で調べてくれるようになる)。ヘルプが不十分な場合は、その場で追記して回答、その場で改善する。
- チャットだからといって、五月雨式にメッセージを送らない(ユーザーも問合せ後、他の業務に移っていることがほとんど)
PR・マーケティング
- サービス名のユニークさ重要。「board」という名前で当初はSEOで苦労した。「請求書」というキーワードでも差別化しにくい
- メディア露出がうまくいかない場合、事例インタビュー、ブログなど地道な活動で知ってもらう
- サービスを使いたくて登録した会員に、メルマガは送りたくない。メルマガの手間を開発にあてたい
- 過度な表現はしない。ギャップにがっかりさせることになり逆効果。信頼感を落とす
- 初期ユーザーの獲得。開発中からTwitterでつぶやいて身の回りの人に、何か作っていると知ってもらう
感想
田向さんは「自分たちは、資金調達をしメディア露出も採用もうまくできているスタートアップとは違うので、自分たちのやり方を選んだ」とおっしゃってますが、スタートアップでも大企業でも、本来リソースは有限です。
たとえ資金が潤沢でメディア露出や採用がうまくいっている企業でも、その上にあぐらをかき、戦略を研ぎ澄ませずにムダな動きをしていては、数年で淘汰されるでしょう。
自分たちを見つめ自社にあったかたちで、地に足をつけて着実に事業を伸ばしていくスタンスは、多くの企業に参考になるでしょう。
田向さん、ありがとうございました!