夏の甲子園、山口県代表の下関国際高校野球部監督のインタビュー記事がネット上で話題を集めていました。
この記事に関連して、以下の2回に分けて書きます。
- 自主性か?強制か?
- 文武両道か否か?
※後編はこちら
冒頭の記事から、自主性に関するコメントを抜粋して引用します。
――朝5時から練習するそうですが、選手が自主的に?
半強制です。自主的にやるまで待っていたら3年間終わっちゃう。練習が終わって学校を出るのは21時くらい。本当に遅いときは23時くらいまでやることもあります。
――確かに、自主性をうたう進学校は増えています。
そういう学校には、絶対負けたくない。
――選手に任せることはしない?
自主性というのは指導者の逃げ。『やらされている選手がかわいそう』とか言われますけど、意味が分からない。
やさしい育て方と厳しい育て方
選手に優しくするべきか、厳しくするべきか。
指導者は迷います。
優しくした結果、選手は調子に乗ったり手を抜くかもしれませんし、厳しくすることで関係が悪くなったり選手がやる気をなくすかもしれません。
選手の性格や場面によっても変わってきそうです。
やり抜く力を育てる賢明な育て方
やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につけるという書籍で、やり抜く力を伸ばす子供の育て方について説明しています。
「人を育てる」という点で、高校野球の監督と共通するところがありそうです。
GRITでは、子供の育て方として以下の2つのスタンスを示しています。
優しい育て方
親が子供に無条件の愛情を注ぎ、しっかり手を差し伸べてこそ、粘り強さと情熱を持った子に育つ
厳しい育て方
子供に「生まれた直後」から自分の力で問題に取り組ませる
書籍では結論としては、優しいか厳しいかの是非ではなく「優しい育て方」と「厳しい育て方」の共通点から「子供への要求が厳しく」「子供への支援を惜しまない」育て方が「賢明な育て方」であるとしています。
ポイントとしては、厳しい育て方でだけではなく優しい育て方でも「子供への要求が厳しい」という点です。
子供への要求が厳しい親
「子供への要求が厳しい」とはどのような点で厳しいのでしょうか。
GRITでは、以下のような子供がやり抜く力を身につけるのに重要なことは、必ずしも子供に判断を任せず厳しく要求するのが良いとしています。
- なにをすべきか
- どれくらい努力すべきか
- いつならやめてもよいか
支援を惜しまない親
また、優しい育て方に限らず厳しい育て方でも、親が以下のような姿勢で子供を支援するのが良いとしています。
- いつでも全力で応援するという姿勢を見せ、安心感を与える
- その子にあった環境をつくる
- 自尊心を与える。自信を持たせる
- 愛情深くどっしりと構え、状況に関わらない明るさをもつ
「重要なことにおいては厳格な親」であり、「一貫して子供を応援する暖かい親」でもあるといえるでしょう。
賢明な監督とは
高校野球の監督を、上記のGRITの4象限で考えてみましょう。賢明な監督とはどのような監督でしょうか。
選手に厳しい要求をする
野球部の活動に合わせて、以下のように照らし合わせました。
- なにをすべきか=どのような練習をするか
- どれくらい努力すべきか=練習量
- いつならやめてもよいか=いつ練習を休むか(部活を辞める/辞めないの判断も含む)
これらの選手の成長にとって重要なことは、子供に判断を任せるのではなく、監督も判断し考えます。
そして選手も考え判断する権利があるというのが、後で述べる独裁的な監督にならないためのポイントです。
選手への支援を惜しまない
監督が、選手への支援を惜しまないためにできることは何でしょうか。
参考となる取り組みを2つ紹介します。
# その1:メンタル面のサポート
高校生は体は大きくなってきますが、精神面は多分に子供です。
一方的に叱りつけたり逆に選手任せで放置したりせずに、選手の気持ちに寄り添った会話が必要です。
いまどきの子のやる気に火をつけるメンタルトレーニング では、石川県の星稜高校などで劇的な成果を出した実績をもとに、選手のやる気と実力を引きだす会話のコツを紹介しています。
- やる気がない子を前向きにする9つの言い方
- 自信のない子を勇気づける8つの言い方
- 不満ばかり口にする子に使命感を与える6つの言い方
- なかなか行動を起こさない子を動かす8つの言い方
- ピンチに弱い子のメンタルを強くする8つの言い方
監督が上の立場から一方的に話すのではなく、会話の仕方や言葉の使い方に気をつけることで、モチベーションを持続させ、選手の力を引きだすことができます。
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# その2:野球ノート
野球ノートは、選手と監督・コーチの交換日記のようなものです。
野球ノートには、以下のような効果があります。
- 選手の将来の目標、なりたい選手像を共有することで一緒に邁進することができる
- 監督が選手の日々の状態を把握し、選手ごとに成長の道筋を見つけ、適切な指導ができる
- 監督が、個々の選手ごとに意思を伝えることができる
野球ノートを導入し監督が選手の気持ちや状況を知ることで、心の距離が近い状態で選手のための厳しい練習を課し・指導ができるでしょう。
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独裁的な監督とは
独裁的な監督とはどのような監督でしょうか。
- 選手の目標、気持ち、状態に関わらず指導する
- 一方的に、選手を厳しい指導に従わせる。
- 選手が自ら考えて決める権利を与えない
これらの結果、選手の「内発的動機」が奪われ、練習は「やらされる練習」になるでしょう。
厳しい練習を課すことにより選手は鍛えられ、レベルはあがります。
しかし、普段から自主的に考えて野球をしなくなるので、試合でも自分で考えて野球をしなくなり、試合での勝負強さは失われていくでしょう。
※鍛えられているので、ある程度のレベルまではいきます。
寛容な監督とは
寛容な監督とはどのような監督でしょうか。
- 練習は選手任せの面が多い
- 選手は自発性にあふれている
- 選手を厳しく鍛えることはしない
選手は自主的に練習しますし、それが良い方向に進むこともあるでしょう。いまどきの監督といえるかもしれません。
監督と選手の関係は良いかもしれませんが、選手は鍛えられていないので、真の意味で選手の力を伸ばし切れず、長い目で見て選手のためになっているかというと、そうではないかもしれません。
「自主性に任せる」では若手は伸びない
元中日ドラゴンズ監督の落合博満氏も、選手の自主性に任せることに異を唱えているひとりです。
ことしの7月に出版した落合博満 アドバイス―――指導者に明かす野球の本質は、中日ドラゴンズのGM時代に社会人野球の指導者から受けた質問をもとに、若手を指導する立場の指導者への「アドバイス」をまとめた書籍です。
この書籍の“「自主性に任せる」では若手は伸びない"の章で、以下のように述べています。
自主的に練習に取り組む姿勢はとても大切で、どれくらい取り組むかが将来を左右するといっても過言ではない。ただそれは、克服すべき課題を的確に見極め、正しい方法で練習している場合の話だ。 自主性に任せるという方針は聞こえはいい。しかし、実際に自主的な取り組みだけで着実に成長できる選手など、プロの世界でもほとんど見たことがない。一流と言われる領域に達した選手の大半が、若い頃は徹底的に練習を"やらされ"、そこから考えて練習することを覚えてきた。表現はよくないが、若い選手は強制的に練習させなければいけないと考えている。
落合氏が、若い選手に練習をやらせる理由として、以下の2つを理由にあげています。
- 自主練習では体力がつかない
- 練習では徹底的に基本を教え込む必要がある
ベテラン選手であれば正しい練習を知っているので任せても良いが、若手の選手は正しい練習を知らないので選手の将来のことを思うと強制的に練習させるのが良いということです。
落合氏が監督時代に、荒木、井端、そして森野をキャンプで徹底的に鍛え、長く活躍する一流選手に成長させたのは有名な話です。
最後に
賢明な指導者とは、選手の成長を第一に考え厳しい練習を課しながらも、選手の成長をメンタル面や環境面で惜しみなく支援できる指導者であると言えるでしょう。
冒頭の記事の監督が、賢明な監督なのか独裁的な監督なのかは当事者ではないと分かりません。
ただ「自主的にやるまで待っていたら3年間終わっちゃう」という言葉からは、2年4か月という高校野球の選手に与えられた短い時間の中で、選手の実力を伸ばしたいという気持ちが感じられます。
また、選手と関係が悪くなることを恐れず、選手のために厳しく鍛えていく強さを持った監督といえるのではないでしょうか。
後編、文武両道は二流?〜指導者のあるべき姿とは では文武両道について取り上げます。
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