私は昨年末の社内納会で、会社が10年目を迎えるにあたり、ビープラウドのビジョン、ミッション、価値観を、創立日の2015年5月23日までに公開すると宣言しました。
そして、1月末のBPCamp(社内旅行)でのワークショップによる社内意識の調査、創立以来の取り組みの振り返り、2006年からの自分のブログの全エントリーの読み直しなどをしたうえで、考えをまとめ、5月23日にブログに公開しました。
年始からずっと取り組んでいたので無事エントリーを公開し「少しゆっくりしよう」と思っていました。
それも束の間、PyCon JP 2015プログラムチームからの連絡を頂いたのは、その8日後の5月31日でした。
「Possibilities of Python」というテーマで基調講演をということでしたが、何を話したら役立てるのか、私にはすぐには浮かびませんでした。
私よりも適任がいるのではということが頭をよぎりましたが、年末の社内納会で、自分のコンフォートゾーン(自分のぬるま湯)から抜け出てコンフォートゾーンを広げようと、会社メンバーの前で話したのを思い出し、メールを読んで1時間後には、担当させて頂きますと返事をしました。
PyCon JPの2日目の基調講演。2日目は10月11日なので準備期間は約4か月です。
インプット
何を話そうかということがわからなかったので、アウトプットのためには、インプットということで、本を読むことに決めました。
読んだ書籍は以下の3種類。
- 自分の人生の血肉になった書籍
- 家の本棚や、電子書籍で積読されている書籍
- 1と2を読んでいるうちに発見した新たな書籍
最終的には、1は30冊、2は30冊、3は10冊程度は読んだと思います。
その中でも、一番役に立ったのは、2の積読されていた書籍でした。
積読されていた書籍を読んでいると、なぜ早く読まなかったのかと思える本が次々と現れました。
そこには多くの発見があり、とても驚いたのを憶えています。
スケジュールとしては、6月7月と8月上旬はインプットに徹しました。
早くかたちにして楽になりたいという気持ちも片隅にはありました。
そこをこらえて、インプットした情報を寝かせることで化学反応を起こし、良いアウトプットが出てくるのを待ったのです。
中途半端な状態で書き始め、その中途半端なアウトプットにとらわれ、本当に話すべきことが表現できないことを回避するためでもありました。
そして、このインプットにより、積読もだいぶ解消されるという嬉しい効果も出ました。
転機
転機が訪れたのは、8月12日でした。
昨年のPyCon JP2014の基調講演をされたサイボウズラボの西尾さんに別件の用事もあり、話を伺いに移転したばかりの日本橋のオフィスに伺いました。
伺う前に、西尾さんのブログや、スライドなどを拝見し、KJ法について書かれているのを発見しました。
KJ法については言葉は知っていましたが、はっきりと考え方については把握していませんでした。
事前知識を仕入れておきたいと思い、川喜田二郎さんの書籍を読んでみました。
- 作者: 川喜田二郎
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2017/06/20
- メディア: 新書
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1967年の出版、なんと今から48年前の書籍です。
そこには、演繹法(インダクション)でもなく、帰納法(デダクション)でもない、もやもやとした情報群から明確な概念を引っぱり出す発想法(アブダクション)が書かれていました。そこには、場数や経験を頼りにするのではなく、個人が創造性を発揮し、チームで衆知を集めるための体系的な方法/考え方が書かれていて、今の時代にも通じる発想法に驚愕しました。
西尾さんに伺うと、「コーディングを支える技術」を執筆された時にもKJ法を使い、内容を導き出していったそうです。
コーディングを支える技術 ~成り立ちから学ぶプログラミング作法 (WEB+DB PRESS plus)
- 作者: 西尾泰和
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2013/04/24
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また、KJ法をやっていくなかで紙切れづくりというプロセス(アイデアを付箋紙に、1行見出しで書いて行く)がありますが、そのコツについて教えて頂きました。
- たとえば100枚とノルマを決めて、アイデアを付箋紙に書いていく
- 枚数のノルマを決め、現在の枚数をカウントすることで、ブレストの進捗度が分かる
- 同じ内容の付箋紙を書いてもOK。複数回出てくるものは重要ということ
西尾さんとは、KJ法だけではなく、U理論という共通の言語もあり、お話し頂いたのは1時間でしたが、それ以上に感じられるほどの密度の濃いお話でした。
この西尾さんのお話を伺い、私もKJ法で基調講演の内容を構成してみようと決めました。
アウトプット
私の作戦としては、8/21まではインプットに専念。
8/22(土)にちょっとした電車の移動があるので、その車中で付箋に書き出しを開始し、8月末までに一気にまとめ、スライドのドラフト版をつくるというものでした。
付箋に書き出し、そして、それを電子化してKJ法(もどき)でまとめたものが以下です。
古典的な書籍ですが、以下の書籍は、スライド構成をまとめる上で、あらためて大変役立ちました。
- 作者: バーバラミント,Barbara Minto,山崎康司
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 1999/03/01
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ピラミッド原則、冒頭部の構成方法、帰納法、演繹法、などロジカルで伝わりやすいスライド構成を検討する上で、とても重宝しています。
その後、9月のシルバーウィーク5連休中はスライドの構成を研ぎすませ、最終的に提出したのは、シルバーウィーク最終日の 9/23の23時過ぎ。
原稿のドラフトを提出したのは、9/30の夜でした。
当日までの準備
9/30に原稿のドラフトを提出してからは、10日間、毎日1日1回、1時間ほど時間をとって、声を出してスライドを読む練習をしました。
声を出して読んでみると、つっかえたり、話しにくい箇所が出てきます。
その話しにくい箇所は、論理的にも思わしくなかったり、伝わりにくかったりする箇所です。
それらの箇所を書き直しては、スライドの精度を上げて行きました。
何かの発表をするときは、1回でも実際に読み上げてみることです。それだけで発表、スライドの質がだいぶ向上します。
当日
基調講演は朝の10時からなので、9時に到着し同時通訳の方々と内容について打ち合わせをしました。
私の懸念点としては、同時通訳と私の話すスピードのバランスでした。
私の話が速すぎて、同時通訳が追いつかなくならないように、ゆっくりと話すように練習してきました。
「同時通訳が話終わってから、次の文章を読めば良いですか?」と質問した所、同時通訳レシーバーをつけているとそれが気になるので、つけない方がよいということで、レシーバーはつけずに話すことになりました。
その代わり、スライドの変わり目や話の変わり目は、少し間をあけてくれると助かるとのこと。
同時通訳の方々との打ち合わせも終わり、壇上に向かい、プロジェクターとの接続テスト。
スライドの表紙だけではなく、他のページも画面に映して切れていないことを確認。準備万端。
本番
定刻になり、スタッフの方に私のプロフィールが紹介され、壇上にあがりました。
当日の内容は、Togetter でまとめて頂いています。
万全の準備をしていたので、心は落ち着いていました。
冒頭で、「Do you Like Python?」という質問をしました。
もはやPythonを使うのは当たり前になっている人に「Pythonが好きだ、Pythonを使いたい」という根源的な気持ちを呼び起こしてもらうためです。
壇上から見ている限り、ほぼ、全員が手を挙げてくれました。
相当数の人たちが「当たり前だろう。Pythonが好きだぜ」というにこやかな顔をしていて、ほっとしました。
そのあとの自己紹介で、なぜだか2回ほど言葉の発音がおかしくなり「あっ、緊張してるな」と自分で認識できました。
しかし、それを認識できたおかげでそのあとは、落ち着いて話せたので一安心でした。
講演にあたっての心配ごとは、英語同時通訳よりも自分が話すスピードが突っ走り過ぎないことです。
だいぶゆっくりと話したので、堅めな口調になってしまったかも知れません。
しかし、@shimizukawa のつぶやきによると、それくらいのペースでも結構早口で訳されていたとのこと。やはりちょうどよかったのかもしれません。
英語の同時通訳すごい。治夫さんけっこうゆっくりしゃべってると思ったけど、同時通訳けっこう早口なので、いいバランスなんだなー #pyconjp
— Takayuki Shimizukawa (@shimizukawa) 2015年10月11日
基調講演の最後のメッセージとしては、「技術に感動しよう」ということで締めくくりました。
プログラミングを始めていた頃は、自分のプログラムが動いた時に「おー、動いた」と感動していたのが、いつのまにかそのような気持ちも忘れてしまいがちです。
そのような人に、もう一度、プログラミングを始めたときの感動を思い出してもらうと同時に、そのあとの技術セッションでまた違う気持ちで話を聴けるようになるとおもったからです。
最後に
このような機会がなかったら、いままでの取り組みや、考えをまとめるということは、おそらくしなかったと思います。
エンジニアの方は、今回のように話せる場があったり、そのような機会が訪れたら積極的にその機会を活用するのが良いでしょう。
それが自分の中に眠っている暗黙知を、輝く形式知として世に出す絶好の機会となります。
PyCon JPプログラムチームの方々には、大きな機会をいただき、本当に感謝しております。
そして、担当の齋藤さん、とてもお世話になりました!ありがとうございます。
PyCon という素晴らしいコミュニティ。また、何かお手伝いできることがありましたら、協力させてください。
発表スライド
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